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大阪高等裁判所 昭和59年(く)136号 決定

少年 D・P(昭四四・八・二二生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年作成の抗告申立書記載のとおりであり、これを要するに、少年はAと共謀して自動二輪車一台を盗んだことはなく、今後は家族に迷惑をかけることをせず、高校に進学できるよう勉強するので、初等少年院に送致した原決定を取り消し、試験観察に付されたいというので、本件保護事件記録及び少年調査記録を調査して、次のとおり判断する。

一  事実誤認の点について

原決定は、非行事実第一において「昭和五九年少第一〇八八九号保護事件記録中、司法警察員作成の少年事件送致書記載の犯罪事実と同一であるから、これを引用する。」とし、少年がAと共謀のうえ自動二輪車一台を窃取した旨認定しており、少年は捜査段階及び原審審判を通じて右の事実を自白し、その自白はAの司法警察員に対する供述によつて裏づけられていたところ、少年は原決定の告知を受けた翌日の昭和五九年一一月九日に至り、大阪少年鑑別所技官に右の窃盗を犯していない旨を申し出で、翌一〇日調査に赴いた大阪家庭裁判所調査官に対し、自動二輸車を盗んでおらず、先輩のB、C、Dらから借りて乗りまわしたものであるが、同人らの名前を明らかにする場合の後難を恐れて、警察の取調べや原審審判で真実を述べず、自分らが盗んだ旨嘘の供述をしたと述べていること、同調査官から通報を受けた○○警察署司法警察職員が改めて少年及びAをはじめ右B、C、DのほかE、Fらを取調べた結果、本件窃盗を犯したのはB、C、E、Fの四名であり、少年とAに使用させたものであることが認められるにいたつた。

したがつて、原決定時においては、少年がAと共謀のうえ自動二輪車一台を窃取したと認定した原決定に誤りは存しないが、原決定後の新たな証拠を総合すると、少年が右の窃盗を犯したとは認められないから、原決定には右の窃盗を少年の非行と認定した点において事実の誤認があるといわねばならないが、その事実誤認は、原審の認定した窃盗八件及び占有離脱物横領一件のうち一件の窃盗に関するものであるから、いまだもつて決定に影響を及ぼす重大な事実の誤認とはいえない。

二  処分不当の点について

原決定が処遇の理由として述べるところは、前示の事実誤認の点を除き当裁判所も概ねこれを相当とするものであり、少年はこれまでに自動二輪車の窃盗罪等で審判不開始決定二回、不処分決定一回を受け、その後昭和五九年六月二二日から同年八月一〇日までの間に単独で自転車の占有離脱物横領一件、原動機付自転車の窃盗三件、共謀による原動機付自転車及び自動二輪車の窃盗四件を重ねて少年鑑別所に収容され、同年九月一四日家庭裁判所調査官の試験観察に付されたのに、同月二七日にはシンナーを吸引して警察に補導され、同年一〇月二九日には自動二輪車の無免許運転を犯したものであつて、その非行性は相当深化しているといわざるをえず、さらに少年の性格、保護者の保護能力等を考えると、もはや試験観察等在宅保護によつて少年の健全な育成を期することは困難な状況にあると認められるから、前示のように窃盗一件が少年の非行でないこと、その他少年が述べるところを考慮しても、短期の処遇勧告を付して少年を初等少年院に送致した原決定の処分が著しく不当であるとはいえない。

以上のように本件抗告は理由がないから、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 兒島武雄 裁判官 谷口敬一 中川隆司)

抗告申立書〈省略〉

〔参照二〕 意見書

意見書

少年D・P

昭和四四年八月二二日生

上記少年に対する窃盗、占有離脱物横領保護事件につき、当裁判所が決定した初等少年院送致決定に対し、少年から抗告の申立があつたので、次のとおり意見を述べる。

1 本件抗告は、棄却されるのが相当と思料する。

但し、昭和五九年少第一〇八八九号窃盗保護事件については、次の理由により「非行なし」と認定するのが相当である。

2 本件抗告に至るまでの経緯及びその後に判明した事実

少年は、当庁昭和五九年少第七六五六号保護事件により少年鑑別所に収容され、その後同年少第七二三七号、第八六八五号各保護事件を併合して開かれた審判において在宅試験観察に付されていたものであるが、観察期間中における少年の生活態度は、夜遊びが続き、シンナー吸引で補導されるなど格別の改善がみられず、予後に不安を残していたところ、学校から少年が単車の窃盗を犯したとの通知を受けたため、所轄の警察署に連絡をとつて事実を確認したうえ、少年及び保護者を当庁へ呼び出して再非行事実(窃盗)の有無を担当調査官及び裁判官が各別に確かめた後に上記保護事件の観護措置残余期間中、少年を再度少年鑑別所に収容する措置を採つた。当裁判所は、二日後の審判において少年に対し、再非行事実(窃盗)の確認をしたところ、少年は自然な態度でこれを認めたため、共犯少年の供述調書等、他の捜査資料に照らし、少年が共犯少年とともに送致事実どおりの再非行を犯したものと認定し、決定書記載の理由により少年を初等少年院(一般短期の処遇勧告付)に送致する旨の決定をした。

ところが、少年は、上記決定後に一時収容された少年鑑別所において突然、再非行事実を否認するに至り、その旨連絡を受けた担当調査官が少年に面接して否認の内容等、少年の供述を聴いた(昭和五九年一一月一〇日付調査報告書)うえ、所轄の警察署にもこれを通知して捜査を促した結果、ほぼ少年の供述どおりの事実が判明したものである(司法警察員作成の同月二二日付関係書類追送書添付の各捜査資料参照)。

3 少年の要保護性について

少年に対する初等少年院送致決定は、上記誤認にかかる窃盗の事実を試験観察中における少年の不良な生活態度の一徴憑としてなされたものであるが、少年は、試験観察期間中にシンナーを吸引して補導されていること、友人と二人乗りし、交替で運転していた単車で普通乗用車と衝突する事故を起こしたこと、同事故の際に乗つていた単車に関して警察の追及を受けるや、故意に事実を隠して少年らが同単車を他から窃取した旨の虚偽の事実を述べて捜査を誤らせたばかりか、家庭裁判所においても同様の事実を述べ、調査、審判において誤つた事実の認定を余儀なくさせたこと等、諸般の事情を併せ考えた場合、少年の単車運転を主とする非行性は必ずしも改善されているとはいえず、上記誤認にかかる窃盗の事実が非行なしとされたとしても、その要保護性の程度に格別の消長をきたすものではないと思われる。

したがつて、現段階において少年を短期間、施設に収容して矯正教育を施すことはやむを得ない措置と考えられるので、本件抗告は、結論において棄却されるのが相当である。

昭和五九年一一月二二日

大阪家庭裁判所第四部

裁判官 法常格

大阪高等裁判所御中

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